認知症の親でも遺言書は作れる?公証役場に行く前に知っておきたいこと

介護の知識

「親が認知症と診断されたけど、まだ遺言書を作れるの?」そう思っている方、実は多いと思います。私も母のことを考えていたとき、ふと疑問に思いました。調べてみると、「条件付きでYES」だということがわかりました。ただ、知らないまま動くと後で無効になるリスクもあるので、事前にしっかり確認しておきたいことをまとめました。

※この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。実際の手続きは必ず専門家(弁護士・司法書士など)にご相談ください。

① 認知症でも遺言書は作れるの?(結論:条件付きでYES)

遺言書を作るためには、「遺言能力(いごんのうりょく)」または「意思能力(いしのうりょく)」と呼ばれる判断力が必要です。重要なのは、「認知症かどうか」ではなく、遺言書を作成したその瞬間に、内容を理解する判断力があったかどうかです。

認知症と診断されていても、症状の程度や進み具合によっては遺言能力が認められることがあります。逆に、認知症の診断がなくても、作成時に正常な判断ができる状態でなかった場合は、遺言書が無効と判断されることもあります。

つまり、「認知症=遺言書が作れない」ではなく、「その時点での判断能力があるかどうか」が重要なのです。

② 鍵は「意思能力の証明」(かかりつけ医への相談が大切)

認知症の方が遺言書を作る場合、後から「あのとき判断能力がなかった」と遺族に争われるリスクがあります。そのリスクを減らすために有効なのが、かかりつけ医や専門医による診断書の取得です。

遺言書を作成する直前の時期に、医師から「現時点では意思能力がある」という趣旨の診断書・意見書を書いてもらうことで、後から有効性を証明する重要な証拠になります。必ずしも義務ではありませんが、認知症の診断がある方の場合は、あらかじめ準備しておくことを強くおすすめします。

③ 公証役場とは?どんなことをするところ?

公証役場とは、法律の専門家である「公証人」が在籍し、さまざまな法律行為を証明してくれる公的な機関です。遺言書には大きく2種類あります。

自筆証書遺言:自分で全文・日付・氏名を手書きし、押印するもの。費用はかからないが、管理リスクがある。
公正証書遺言:公証役場で公証人が作成に関わるもの。証人2人の立会いが必要で費用もかかるが、改ざんや紛失のリスクが低く、後から無効とされにくい。

なお2020年7月からは、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。手数料は遺言書1通につき3,900円。紛失・改ざんの心配がなくなり、保管された遺言書は家庭裁判所の検認が不要になるのが大きなメリットです(法務局で形式の外形的なチェックも受けられます)。ただし、遺言の「内容」が有効かどうかまでは保証されないため、認知症の親の遺言では、後述する意思能力の証明とあわせて考えることが大切です。

(出典: 法務省「自筆証書遺言書保管制度」)

認知症の方の場合、公正証書遺言のほうが安全です。公証人が本人と直接面談し、意思確認を行うため、その場での意思能力のチェックが入ります。また、公正証書として法的に保管されるため、後の紛争リスクも下がります。

ことばだけだと違いがわかりにくいので、2つの遺言書を表にしてみました。

項目自筆証書遺言公正証書遺言
作り方本人が全文・日付・氏名を手書きし押印公証役場で公証人が作成
費用基本かからない(法務局保管は1通3,900円)財産額に応じた手数料(数万円〜)
証人不要2人必要
検認必要(法務局の保管制度なら不要)不要
紛失・改ざんのリスクあり(保管制度で軽減できる)低い
認知症の親の場合添え手の条件が厳しい公証人が面談で意思確認◎ より安全
※認知症の親の場合は、面談で意思確認のある公正証書遺言のほうが安全とされています。

④ 自筆でサインできない場合はどうする?

高齢や体の不自由さから、自分だけでは署名・押印が難しい場合があります。

自筆証書遺言の場合、判例では「添え手(そえて)」による補助が認められる場合があるとされています。ただしこれには条件があり、①遺言者本人に自書能力があること、②他人の添え手が必要最小限であること(指や手を動かす力を補助するだけで、自らの意思で書いていること)、③添え手が遺言者の意思に基づいていることが必要です。条件が厳しいため、できれば公正証書遺言の形式をとることが望ましいとされています。

公正証書遺言の場合は、遺言者が口頭で意思を伝え、公証人が文章を作成する形になるため、手書きが難しい方でも対応可能です。

⑤ 注意点:面談で意思能力を疑われると無効になるリスクも

公証役場での面談時に、公証人が「この方は遺言内容を理解できていない」と判断した場合、公正証書遺言の作成を断られることがあります。また、作成後であっても、相続発生時に他の相続人から「あの時点で意思能力がなかった」と主張され、裁判で争われるケースも実際にあります。

こうしたリスクを避けるためにも、以下の準備が大切です。

・医師の診断書・意見書を事前に取得する
・できるだけ症状が軽い「良い状態のとき」に手続きを進める
・弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら進める

公正証書遺言の費用はいくらかかる?

認知症の親には安全な公正証書遺言がおすすめですが、気になるのが費用です。公正証書遺言の手数料は「公証人手数料令」という政令で決まっていて、遺言で渡す財産の額によって変わります(相談自体は無料です)。

目的の価額(渡す財産の額)手数料
100万円以下5,000円
100万円超〜200万円以下7,000円
200万円超〜500万円以下13,000円
500万円超〜1,000万円以下20,000円
1,000万円超〜3,000万円以下26,000円
3,000万円超〜5,000万円以下33,000円
5,000万円超〜1億円以下49,000円

(50万円以下は3,000円、1億円超はさらに加算されます)

ポイントは3つあります。
① 財産を渡す相手ごとに上の表で手数料を計算し、合計します(例:子ども2人に分けるなら、それぞれの取り分で計算して合算)。
② 渡す財産の合計が1億円以下のときは、上の手数料に13,000円が加算されます(「遺言加算」)。
③ このほか、正本・謄本の交付手数料(書面1枚につき300円など)が少しかかります。

たとえば「3,000万円の財産を子ども1人に相続させる」なら、26,000円+遺言加算13,000円=約39,000円+数千円、というイメージです。

なお、体力的に公証役場へ行けず、公証人に自宅・病院・老人ホーム・介護施設へ来てもらう場合は、手数料が50%加算されることがあるほか、公証人の日当(1日2万円、4時間以内なら1万円)と交通費がかかります。親が外出しづらい場合でも出張で作成できることは、介護中の家族にとって覚えておくと安心です。

費用を準備しておくという意味では、認知症が進む前の口座凍結への備えとあわせて考えておくと、いざという時にあわてずにすみます。

(出典: 日本公証人連合会)

公正証書遺言に必要な書類

公証役場で公正証書遺言を作るとき、主に次の書類が必要です(ケースによって変わるので、最終的には公証役場で確認してください)。

  • 遺言者本人の確認資料(印鑑登録証明書+実印、または運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等のいずれか)
  • 遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本
  • 財産を相続人以外に渡す場合は、その人(受遺者)の住民票など住所がわかるもの
  • 不動産がある場合は、登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書
  • 預貯金を特定する場合は、通帳またはそのコピー
  • 証人2人の住所・氏名・生年月日がわかる資料(運転免許証のコピーなど)
  • 遺言執行者を相続人・受遺者以外にする場合は、その人の住所等がわかる資料

証人2人について注意:証人は誰でもなれるわけではありません。推定相続人や受遺者、その配偶者・直系血族などの利害関係人、未成年者は証人になれません。適当な人がいない場合は、公証役場で証人を紹介してもらえます(有料)。

(出典: 日本公証人連合会)

※費用や制度は変わることがあります。最新は公証役場・法務局でご確認ください。

⑥ まとめ:早めに動くことが何より大切

認知症の診断があっても、遺言書を作ることは決して不可能ではありません。ただし、症状が進んでからでは難しくなります。「まだ大丈夫」と思っているうちに、気づいたら手遅れになってしまうことも。

遺言書と並行して考えておきたいのが、認知症による口座凍結の対策です。認知症が進むと銀行口座が使えなくなるケースがあり、介護費用の支払いが止まることも。遺言書・家族信託・任意後見は、セットで早めに準備しておくのが理想です。

早めにかかりつけ医に相談し、専門家(弁護士・司法書士)と一緒に動くことが、本人の意思を正しく残すための最善策です。

よくある質問(認知症の親の遺言書)

Q. 認知症と診断されていても公正証書遺言は作れますか?

A. 「認知症かどうか」ではなく「作成したその時点で内容を理解する判断力(遺言能力)があるか」で決まります。症状が軽いうちなら作れる場合があります。後の争いを避けるため、作成前後に医師の診断書・意見書を用意しておくのがおすすめです。

Q. 費用はいくらくらいかかりますか?

A. 渡す財産の額で決まります。たとえば3,000万円を子ども1人に相続させるなら、手数料26,000円+遺言加算13,000円=約39,000円+数千円が目安です。相談は無料です。

Q. 自筆の遺言と公正証書遺言、どちらがいいですか?

A. 認知症の親の場合は、公証人が本人と面談して意思確認をする公正証書遺言の方が安全で、後から無効になりにくいです。自筆の場合も、2020年からの法務局の保管制度(1通3,900円・検認不要)を使うと紛失・改ざんのリスクを減らせます。

Q. 証人は家族がなれますか?

A. 推定相続人や受遺者、その配偶者・直系血族はなれません。未成年者も不可です。適当な人がいなければ公証役場で紹介してもらえます。

Q. 親が外出できなくても作れますか?

A. 公証人に自宅・病院・施設へ出張してもらって作成できます(手数料の加算・日当・交通費がかかります)。

※費用や制度は変わることがあります。最新は公証役場・法務局でご確認ください。

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