離婚の手続き中、認知症の母が実印を隠した話

母のこと

離婚を決意したとき、私の手元にはほとんど何もなかった。お金も、行き場も、そして——実印まで。

「実印がない!」と気づいたのは、家の売却手続きが迫っていたタイミングだった。探してみると、母が隠していた。病気のせいだとわかっていても、そのときの途方に暮れた気持ちは今でも忘れられない。

離婚と実家、2択の選択

離婚の際、実家での同居が前提にあった。

母は、私たちと同居する事を、結局は受け入れられなかった。

⚪︎夫に出て行ってもらい、家に住み続ける

⚪︎実家で同居する

この2択だった。

ただ、家にはローンがある。

子ども達の教育費、生活費諸々の費用を夫に払ってもらうには、ローンのある家を持ち続けていく事には、リスクがある。

私立の学校に通う2人をこのままの環境で過ごさせるには、実家で住まわせてもらい、家を処分。これしかないとその時の私は思った。

夫はこんな時も、自分の意見など言わないので、私の言うがままに事は進んだ。

母の「可愛さ余って憎さ百倍」

ただ、同居出来ないとは、全く考えてなかったから、本当に途方に暮れた。

母は、多分、可愛さ余って憎さ百倍…

私の事を大切に思う事と裏腹に酷く憎んでいる様な態度をその頃とっていた。

病気から来る事だが…。人から、ましては母から憎しみの表情を向けられる事は辛い。

父が用意してくれた団地の一室

父は、団地の一室を私に用意してくれた。

ありえない事だが、私はお金を全く持っていなかった。だから、父が用意した。

母とも散々話し合って決めた事だが、

母は忘れてしまい、また説明しなければならない。

父が私に住まいを与えた事を、母はすごく怒った。

「あんな女になぜ?!私にお金をその分よこせ!」

そこまで憎まれるのなら、私は家などいらないし、実家で住ませて欲しい。

そう思ったが、私が思うように言葉は伝わらず、辛い時間が続いた。

実印を隠した母

団地の契約、鍵の引渡しなどなど。

節目節目で、父と母が大げんかになる。2階のベランダからは、リモコンや布団が投げられた。

母は、財布や実印、車の鍵、父が用事を済ませられない様に隠した。

その度に探さなければならない。

母は、「あいつの勝手にはさせない。実印をかくしてやる。」と私に笑いながら言う。

「あんた、黙ってるのよ」

私のせいだと、今でも思う

私が離婚する事で、

おそらく母の認知症の症状は大きく進んだのだと思う。

そんな事はないと人は言うが、

私のせいだ。これを受け入れて、

私はこれからどう生きていくか、

本気で考えなければならない。

笑って、笑って、生きていく

子ども達と一緒に後何年、過ごせるかわからないが、辛い日々だったとは思いたくはない。

笑って笑って笑って毎日過ごす。

だって元気だもの。

どんなに追い詰められた日々でも、母の「実印かくしてやる」という笑顔が、不思議と今は愛しく思える。人は笑いながら生きていける。そう信じてこれからも前に進む。

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