母の担当ケアマネさんと会うのは、いつも母が同席する面談の場だ。
父はその場で、ほとんど何も言わない。母の前で余計なことを言えば、何が起きるかわからない。事実と違うことで責められて、物を投げられたり、どつかれたりすることもある。だから父は、面談中はダンマリを決め込む。それが父なりの、その場を乗り切る方法だった。
私は、知っていた
でも、私は父から話を聞いていた。
母の攻撃性が高まっていること。父が硬膜下血腫で入院したこと。面談の場では絶対に出てこない話が、いくつもあった。
ケアマネさんは、何も知らなかった。知らせていなかったのだから、当然だ。でも私は、それでもどこかで「気づいてほしかった」と思っていた。
以前、電話して父に怒られた
ケアマネさんとは電話番号を交換していた。以前、一度電話をかけたことがある。そのとき父に怒られた。「余計なことをするな」という意味だったと思う。
だから今回も、電話はしたくなかった。
でも、あるとき「怒られてもいいか」と思った。このままでは何も変わらない。父が限界を超えてからでは遅い。そう思って、受話器を取った。
現状を話した。母の攻撃性のこと。父が入院していたこと。面談では出てこない話を、できる限り伝えた。
ケアマネさんは、父の疲弊には気づいていた
電話口でケアマネさんは言った。「私が聞いていなかったことばかりです」と。
でも、父が疲れ果てている様子には気づいていたという。面談のたびに、どこか沈んだ顔をしている、と。ただ、詳しいことは何も聞けていなかった。
私は少し不信感を持った。気づいているなら、なぜもっと踏み込んでくれなかったのか。父に別の機会に電話するとか、できることがあったんじゃないか、と。
50人を担当していると知った
後になって、ケアマネさんが50人の利用者を担当していることを知った。
そのとき、腑に落ちた。待っていても、こちらの事情は伝わらない。50人のうちの一人として、何も言わなければ、何も動かない。
「困っていることは、こちらから言わなければ伝わらない」——そういうことだったのだ。ケアマネさんを責める気持ちより、そっちの理解が先に来た。
電話した後、動いてくれた
ケアマネさんはすぐに動いてくれた。父に対して、デイサービスをもう少し増やすことを提案してくれた。セカンドオピニオンも勧めてくれた。
そして、私が話したことで、ケアマネさんも話してくれたことがあった。デイサービスで母がちょっとしたトラブルを起こしていたこと。父に話してしまうと、父が苦しむから——ケアマネさんが気の毒に思って、あえて言わないでいたらしい。私が攻撃性の話をしたことで、ケアマネさんもすぐに状況を理解してくれた。
情報は、双方向だった。
声を上げることで、助けてもらえる
電話を終えて、思った。やっぱりかけてよかった、と。
困っていることを「困っている」と言うことで、助けてもらえる。他の選択肢を示してもらえる。待っているだけでは、何も動かない。
父には怒られるかもしれない。でも、致し方なし。そう、強く思った。
ケアマネさんは敵じゃない。でも、こちらから声を上げなければ、味方にもなってもらえない。介護は、黙っていては回らない。それが、あの電話で学んだことだった。
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