夕方、いつものように実家に寄ってから帰った。
夜8時ごろ、母から電話が来た。父の財布がなくなった、というのだ。「お父さんが、私が隠したって言うの!」と母は訴えていた。
正直、よくあることだった。また出てくるでしょう、と話を切り上げようとしたら、途中で母を怒らせてしまった。電話をぶつ切りにされた。
でも、すぐにまたかかってきた。同じ話。電話の後ろでガタンガタンと音がする。父がイライラしているのが伝わってきた。翌日は父のゴルフだという。
「すぐ行く」と母をなだめて、パジャマのまま家を出た。
父の声も聞こえたけど、「来なくていい」とは言わなかった。それが、来てほしいということだとわかった。
夜9時過ぎ、思いがけない場所で
実家に着くと、父は疲れ切っていた。母は「私は何もしていない、なぜ疑われなきゃいけないの」と機嫌が悪い。
母の機嫌を損ねないように気をつけながら、父のイライラも受け止めながら、一緒に探した。
「一緒に探そう」と声をかけると、母は「なんで私が?」と怒った。「もし私が見つけたら、私が隠したと思われるでしょ」。そう言い張って、動かなかった。
免許証が財布の中にあると聞いて、「それなら絶対見つけよう」と腹を括った。夜9時を過ぎたころ、思いがけない場所で見つかった。
見つかったのは、電動自転車の充電器を入れてあるプラスチックケースの中だった。二つ折りの財布が開いた状態で入っていて、その上に充電器が乗っていた。
母が隠したのだろう。でも母は、隠したこと自体を覚えていない。父は「母に隠した場所を教えてくれ」と言う。母は「私は何もしていない」と怒る。どちらも、本当のことを言っている。
母は自分のお金も、家のどこかに隠してしまって見つけられなくなっている。隠す。忘れる。また隠す。その繰り返しの中で、父は疲れ切っている。
財布は見つかった。でも、探し回るうちに気づいてしまった。家の中が、荒れている。
片付けても、終わらない
翌日、実家に行くと父がゴルフから帰っていた。お風呂も入らずに帰ってきたようだった。
母は、そんな父に偉そうに接していた。機嫌が悪かった。
私は母の洋服を片付けることにした。一度冬服を片付けたのに、また引っ張り出して着ている。洗濯待ちのものが重なって放置され、くるくると丸めて突っ込まれたもの、バラバラになった下着。片付けても片付けても終わらない。以前整理したものも、また何かを探したのかぐちゃぐちゃになっていた。
母がお風呂に入ると言って、下着とパジャマを取りに来た。でもパジャマの上が見つからない。「先に入ってきて、探しておくから」と母を送り出した。
あっという間に母が出てきた。シャワーだけだったのかもしれない。どかどかと音を立てて歩いていた。機嫌が悪いとわかった。
母はブラトップを後ろ前に着ていた。カップが背中側にある状態で、本人は何とも思っていない様子だった。父が「そんな格好でウロウロするな」と怒ったのは、それを見たからだろう。
「後ろ前だよ」と言いながら着替えを手伝い、パジャマの代わりになるTシャツを渡した。
父はソファに腰掛けて、ぼそっと言った。「帰ってきて、どうして偉そうに言うんや」
母がまた怒る。「こんな家にいても仕方ない」と言い捨てた。
そのうち母は「出かける」と言い出した。ポシェットを両肩に一つずつかけて、チグハグな格好で玄関に向かっていた。
その姿が、切なかった。ブラトップを後ろ前に着ていたことと同じだ。できなくなっていることが、また一つ増えた。そう思うと、胸が痛かった。
洋服の中から、通帳の束が
片付けを続けていたら、洋服の中から通帳の束が出てきた。明らかに隠していた様子だった。母のものだ。
父に渡したかった。でも母は、私と父を二人きりにさせない。何も言えないまま、そっと父の机の引き出しに入れた。
父に何かしてあげたい。でも、できない。
仕事に、感謝している
仕事はハードで、毎日ジェットコースターみたいに時間が流れる。嫌なこともある。
でもその忙しさのおかげで、父と母のことを忘れられる瞬間がある。
仕事に、感謝している。
夜は子どもの隣に布団を敷いて、横になれば眠れる。それだけで十分だと思っている。
▶ 介護に関するサービスや施設について、もっと知りたい方へ
24時間365日対応の介護保険外のオーダーメイド介護サービス【イチロウ】📖 あわせて読みたい


コメント