認知症の親のこと、医者に本音を伝えられない——「本人が隣にいると言えない」を越える方法

介護の知識

「医者に、なんて言ったらいいか、わからない」

診察を待つ長い待ち時間に、父がぽつりとこぼした。

母の認知症が進み、怒る、物を投げる、殴る——攻撃的な言動に、いちばん近くにいる父が疲れきっていた。だから今回、父と弟と私の3人で、母抜きで主治医に相談に行くことにした。病院に勧められたわけではない。このままでは父が倒れると思った私たちが、半ば強引にこぎつけた受診だった。

この記事では、そのとき私たち家族が「知らなかった」と痛感したこと——認知症の親の様子を医者やケアマネジャーに伝えるための、具体的な方法をまとめます。同じように「本人が隣にいて、本当のことが言えない」と悩んでいる方に届いたら嬉しいです。

なぜ「変わりないです」と答えてしまうのか

母は2か月に1度の通院と、月1回のケアマネジャーの面談を受けている。でも、そのすべてに母本人が同席している。

母を目の前にして、「実は暴力があって」「暴言がひどくて」とは言えない。本人を傷つけるし、あとで何を言われるかわからない。だから両親は毎回「変わりないです」と答え、薬はそのまま継続されてきた。

昨年秋に病院を変えて薬を調整したときは、1か月ほど症状が落ち着いた。でも徐々に攻撃性が戻り、家族はその都度なんとか対応して乗り切ってきた。医者だけが、その現実を知らなかった。

もうひとつ、書いておきたいことがある。診察室では、人は小さくなるということだ。

父は、大手企業で管理職まで務めた人だ。長く社会で働き、私にとっては尊敬すべき大人だ。その父が、医者を前にすると言葉が出なくなる。介護で疲れきっていることもある。でもそれだけじゃない。短い診察時間、専門用語、「こんなことを聞いていいのか」という遠慮——診察室には、こちらを萎縮させる独特の空気がある。

しっかり者の家族でさえ、そうなのだ。だから「その場でうまく話す」ことを目指さなくていい。話せないことを前提に、渡せる準備をしていく——それが現実的な方法だと思う。

私たちが知らなかった3つのこと

① 受診は「本人抜き」でもできる

今回、家族3人だけで受診した。私たちはそれを「特別なお願い」だと思っていた。でも診察の最後、医者はこう言った。「2週間後、薬が合っているか経過を確認しましょう。ご家族だけで結構です」

……え? 本人がいなくていいの?と拍子抜けした。家族だけの受診も、その後の経過確認も、普通にできるのだ。そんな基本すら、私たちは誰にも教えてもらえなかった。

② 様子は「手紙・メモ」にして渡していい

父が「母が隣にいるから言えない」とこぼすと、医者はこう言った。

「だから、みなさん手紙を書いたりしてきますよ」

そういう方法があるなら、どうして先に教えてくれなかったのだろう——と正直思った。でも、これは使える。私はたまたま、自分の気持ちを整理するために母の様子を書きためたメモを持っていたので、その場で医者に手渡した。口では言えないことも、紙なら伝えられる。本人の前でも、黙って渡すだけでいい。

③ ケアマネ面談は「デイの日」に頼める

ケアマネジャーさんとの面談も、いつも母が隣にいた。私は思い切って電話で聞いてみた。「母がデイサービスに行っている日に、面談をお願いすることはできますか?」

答えは「そんなことはないですよ」。あっさりだった。

聞くまで、ずっとためらっていた。失礼かな、わがままかな、と。でも「本人がいない場で話したい」というお願いは、介護の現場ではむしろ普通のことだった。今後は母がデイに行っている日に面談を設定してもらうことになった。

「本人抜き」は特別なことじゃない——知っておきたい事実

あとから調べて、これらが特別なお願いではないことを知った。

  • 家族だけの相談を受け付けている医療機関は多い。認知症の診療では「家族相談」という形で、本人不在で話を聞いてもらえる場合がある。ただし対応は病院によって異なるので、予約の電話で「家族だけで相談したいのですが」と伝えて確認するのが確実。
  • メモや手紙で様子を伝えるのは、認知症診療では定番の方法。うちの主治医も「みなさん手紙を書いたりしてきますよ」と言った。つまり、医者側にとっては見慣れたやり方。遠慮する必要はまったくない。
  • ケアマネジャーには、月1回本人の様子を確認する訪問(モニタリング)が義務づけられている。でもそれとは別に、家族だけの相談時間をお願いすることはできる。「本人がデイサービスに行っている日に面談したい」という頼み方も、珍しいことではない。

なお、本人へのモニタリング訪問とは別に面談をお願いすると、ケアマネジャーの手間は増える。でも、家族の相談に応じるのもケアマネジャーの正式な業務のうちで、追加の料金はかからない。訪問でなくても、電話や事業所での面談という形も選べる。「申し訳ない」とためらわなくて大丈夫だ。

どれも、知ってさえいれば電話一本で頼めることだった。

医者に渡す「様子メモ」の書き方

私が渡したメモをもとに、書き方のコツをまとめるとこんな感じです。

  • いつ・どこで・何があったかを短く(例:「◯日夕方、財布が見つからず、父に物を投げた」)
  • 頻度を書く(毎日か、週に何回か)
  • いちばん困っていることを1つに絞って最初に書く
  • 感情表現より事実を(「ひどい」より「殴られた」)
  • A4半分〜1枚で十分。長くなくていい

診察の最初に「これを読んでいただけますか」と渡すだけで、限られた診察時間が何倍も濃くなります。

「症状」だと知ることが、家族を守る

医者は言った。「怒る、イライラする、物を投げる、殴る——それは症状です。薬を調整しましょう」

シンプルな言葉だったけれど、大事なことだと思う。攻撃性は本人の性格が変わったのではなく、病気の症状。つまり、薬の調整で和らげられる可能性がある。実際、うちは以前の薬の変更で「死ぬ」「殺す」という言葉が消えた経験がある(→認知症の親の主治医を変えた話)。

そのためにも、医者に本当の様子が伝わっていることが、すべての出発点になる。「変わりないです」のままでは、薬も変わらない。

まとめ——伝える場は、つくっていい

  • 受診も経過確認も、本人抜きでできる
  • 言えないことは、手紙・メモにして渡す
  • ケアマネ面談は、本人がデイに行っている日に頼める

どれも、聞いてしまえば「そんなことはないですよ」で終わる話だった。でも私たちは、何年も知らなかった。

母が病気になってから、痛感していることがある。介護の情報は、お客様として待っていても届かない、ということだ。「知りたい」と思って、こちらから動いた人にだけ、ようやく手に入る。本人抜きの受診も、手紙のことも、デイの日の面談も——聞くまで、誰も教えてくれなかった。現実は、厳しい。

でも、逆に言えば——聞けば、答えてもらえる。

介護は、本人のいる前では言えないことだらけだ。だからこそ、本音を伝える場は、遠慮せずつくっていい。同じ場所で立ち止まっている方の、参考になりますように。

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