1000円のアイス代

母のこと

昨日は、母がデイサービスの日だった。

一昨日、父の財布を探しているときに見つけた母の通帳の束。おそらく再発行した古いもので、もう使っていないものだと思う。でも、また母の目に触れたら混乱するかもしれないと思って、預かっておいた。

その通帳を父に渡すこと。母の冬服を洗濯して、片付けること。それが今日の用事だった。できれば母が帰ってくる前に、自宅へ戻りたかった。

でも父に言われた。「用がないのなら、もう少し居て顔を見ていってよ」。

私には用事はない。家で待っている子どもがいる家に帰りたいだけだ。朝7時に家を出て、仕事終わりに実家に寄っている。少しでも早く家に帰りたい。それが正直なところだ。

またか、と思った

母がデイサービスから帰宅した。父が言った。「財布はどこにやったの?」

またか、と思った。

母が怒り出す。「私は隠してない。知らないわよ」。父は、昨日母が一人で買い物に行ったんじゃないかという。パンがあった、と。母は行っていないという。言い合いが始まった。

「帰ってきて早々なんでこんなこと言われなきゃならないの?」

母が、その辺のものを投げ出した。引き出しを出して、片っ端からひっくり返した。探せという。

私は心を無にして、ぐちゃぐちゃになった引き出しの中身を選別しながら片付けた。

しばらく探していると、行方不明になっていた母の財布が出てきた。「あったよ。よかったね」と言ったら、「知ってたわよ」と母。

今は家計の財布を探さなければならない。私はまた片付けを続けた。

しばらくして、母が振り向いた。「なんであんたがそんなとこ触ってるの?お母さんのもの触らないで!」

話は違う方向に流れ、母は父に言い出した。「家計のお財布なんてなくてもいいじゃない。あんたの財布があるでしょ。お小遣いたくさんおろしているんだから、そこから買いなさい」

わけがわからない。

父がやっと「もういい」と言ってくれた。私も違う話をして、母の関心を逸らした。財布のことは少し下火になったが、母の機嫌が悪いことには変わりない。

心を無にして、淡々と

その間も私は、家の中を片付けたり、食卓まわりのものを片付けたり、夕飯の配食を温めたり、お茶を入れたりした。淡々と、ただ淡々と。

母が気晴らしに行こうと言い出した。自分の財布を探し始めた。さっき見つかったばかりの財布が、もう見つからない。私は場所を知っていたが、教えなかった。

私の家に行くと準備を始めたが、そのうちに「お風呂に入る」という話になった。私は「子どもたちがお腹すかしているから、帰るね」とさらっと明るく伝えた。

帰れなかった。「一緒に行きたい」と母が言ったから。

じゃあ、待ってるね、と伝えた。母は驚くほどの速さでシャワーを浴びた。髪も濡れていたから、洗ったのだろう。

私から「うちに来るんでしょ?」とは言わない。母は忘れているに違いないから。

「お母さん、お腹空いたでしょ?ご飯食べよう」と伝えて、コップに水を入れて薬を渡した。急に嫌になったらしく「飲まない」という。父が過剰に反応する。「また世話をしなきゃならない。自分で飲んでくれ」と、疲れ切った顔で言う。

「飲もうが飲まないが、私の勝手でしょ」と母はキレた。でも、結局は飲んだ。

母が私を見て言った。「あんたなんでいるの?」

父が説明する。お母さんが帰ろうとしているのを引き止めたんだよ、待っててと言って風呂に入ったんだよ、早く解放してやれ、と。それがまた気に食わず、母の機嫌がさらに悪くなった。

急に「お腹すいた」と母が言った。黙々と食べ始めた。

私だってお腹が空いているのに、家に帰れない。

1000円のアイス代

「お母さん、私帰るね」

一言言って、振り返らずに玄関を出た。

後ろから母が出てきた。1000円を差し出した。「お父さんがくれた」と言った。財布がないから、ポケットから出してきたのだろう。「アイス代」と言っていた。

涙が出た。

帰りの車の中で、ふと思い出した。弟が実家に来たとき、両親はペットボトルのお茶を勧める。私には、ない。

そんなことは、普段は全く気にならない。でも今日は、大切にされていないような、自分の存在がやるせないような気分になった。

疲れていたからだと思う。

でも、1000円を握りしめながら、最悪の一日だったと思いながら、それでも泣いてしまった。

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