「認知症の親に叩かれた」「暴言がつらい」——そう検索したあなたは、もう十分がんばっています。これはあなたのせいでも、恥ずかしいことでもありません。この記事では、なぜ暴力・暴言が起きるのか、やってはいけない対応とうまくいく対応、そして介護者自身を守るための相談先を、介護経験者がまとめます。
母に、往復ビンタをされたことがある。
頬を、左右に、何度も。認知症が進んでいた時期のことだ。
最初に書いておきたい。こういうことを、声に出して言える人は少ない。私もずっと、言えなかった。「これって、ウチだけなんだろうか」と、何度も思った。でも、たぶん違う。同じことが、今この瞬間にも、どこかの家で起きている。
認知症の暴力・暴言が起きやすい「きっかけ」
認知症による暴力や暴言は、性格が変わったわけでも、あなたを憎んでいるわけでもありません。多くは不安・混乱・不快が引き金になって起こります。とくに次のような場面で出やすいといわれます。
- 体に触れられるとき——入浴・着替え・排せつの介助など。本人には「何をされるか分からない」恐怖になりがちです。
- 急かされた・否定されたとき——「早く」「違うでしょ」が引き金になります。
- 体調が悪いとき——痛み・便秘・薬の影響・発熱など、言葉でうまく伝えられない不快感。
- 夕方〜夜(夕暮れ症候群)——不安が強まりやすい時間帯です。
「なぜ怒っているのか」を本人の側から考えると、対応のヒントが見えてきます。
暴力・暴言への対応のコツ——やってはいけない/うまくいく
完璧に対応する必要はありません。知っておくだけで少し楽になる、関わり方のコツです。
- 避けたい:力で押さえる/大声で叱る/正論で言い負かす/無理に続ける。
- うまくいきやすい:いったん離れて時間を置く/「ごめんね」と一度引く/別のことに気をそらす/落ち着いてからやり直す。
- 記録する:いつ・どんな場面で起きたかメモしておくと、医師やケアマネに相談しやすく、薬や対応の調整に役立ちます。
そして何より大切なのは、あなた自身の安全を確保すること。危ないと思ったら、まず距離を取って構いません。
手だけじゃなかった
暴力は、手だけではなかった。
人格を否定するような言葉で、なじられた。攻撃は、言葉と身体の両方から来ていた。
「お父さんは、離れておいて」
診断を受けて間もない頃は、父は止めなかった。どうしていいか、わからなかったんだと思う。
でも今は違う。父は、止めようとする。ただ——父が止めると、母は父を殴る。私が止めると、私を殴る。
だから、母がそうなったときは、私が父に言う。「大丈夫だから、離れておいて」と。年齢的にも、父のほうがダメージは大きい気がするから。自分が殴られるほうを選んでいる、というより、そうするしかない、という感覚に近い。
最近は、その父への当たりが、強くなってきている。私には、母が父をいじめているように見える日がある。
なぜ、こんなことが起きるのか
あとで、調べてわかったことがある。
汚い言葉や攻撃的な言葉が増えるのは、認知症ではよく知られた症状(BPSD=行動・心理症状)だという。理由は大きく二つ。ひとつは、脳の「ブレーキ」が効かなくなること。ふだんは「これは言っちゃいけない」と抑えている前頭葉が弱ると、飲み込んでいたはずの言葉が、フィルターを通さずに出てしまう(脱抑制)。もうひとつは、罵りや感情的な言葉が、新しい記憶や論理とは別の、もっと古い・感情に近い脳の回路から出てくること。だから、さっき言ったことは忘れていても、汚い言葉だけはよどみなく出る——ということが起きる。
「これだけスラスラ言えるなら、本心なんじゃないか」と、私も何度も思った。でも、調べるほど逆だとわかってきた。流暢な暴言と物忘れが同居するのが、認知症の脳の変化そのものなのだと。そして、いちばん近くで支える人に攻撃が集中するのも、この病気の特徴だという。安心できる相手ほど、不安や混乱をぶつけてしまう。本人も、どこかで苦しんでいる。
きっかけは、ささいなことだ。
10日ほど前は、財布がなくなったことが発端だった。母は「盗られた」と言い、父と母のイライラが膨らんで、最後に母の攻撃性がはじけた。
頭では、病気だとわかる。でも、叩かれた頬は痛いし、なじられた言葉は、簡単には消えない。「病気だから」のひと言で、自分の心まで納得させるのは難しい。それで、いいと思う。許せなくても、あなたは悪くない。
薬で変わった。でも、波がある
転機になったのは、主治医を変えたことだった。セカンドオピニオンを受けて、薬が変わった。それから、母の「死ぬ」「殺す」といった激しい言葉が、少しずつ減っていった。
でも、半年ほど経った今、また攻撃性が強くなってきている。薬は、効いてくれる時期があっても、ずっと同じではない。症状には波がある。だから「一度よくなった=もう大丈夫」ではないのだと、今、痛感している。
もし今、同じ状況で苦しんでいるなら、一度、主治医に相談してみてほしい。薬が合うかどうかで、本当に変わることがある。そして、また強くなってきたら、もう一度相談していい。これは、私が実際に経験して、思うことだ。
介護者が暴力を受けたとき、どこに相談できるか
一人で抱えないでほしいので、調べたことを書いておく。
- 地域包括支援センター……市区町村ごとにある、介護の総合相談窓口。まずここでいい。
- 担当のケアマネジャー……薬や介護サービスの調整も含めて相談できる。
- 認知症の人と家族の会……研修を受けた介護経験者が、電話で話を聞いてくれる。フリーダイヤル 0120-294-456(平日10:00〜15:00/携帯・スマホからは050-5358-6578)。LINE電話での相談もできる。
「ただグチを言うだけ」でもいい。それで少し、息ができる。介護がつらい、もう限界かもと感じたら、レスパイトケアで少し休む方法もある。
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よくある質問(認知症の暴力・暴言)
Q. 暴力は薬で落ち着きますか?
A. 原因(痛み・不安・環境)への対応が基本ですが、医師の判断で薬が使われ、落ち着くこともあります。まずは主治医・もの忘れ外来に相談しましょう。
Q. 叩かれて、つい叩き返しそうになります。
A. それだけ追い詰められているサインです。その場を離れて構いません。ひとりで抱えず、ケアマネや地域包括支援センターに必ず相談してください。
Q. どこに相談すればいいですか?
A. ケアマネジャー、地域包括支援センターが入口です。深刻な場合は、自治体の高齢者虐待相談窓口も利用できます(介護者側の相談もできます)。
Q. 少し休みたいときは?
A. ショートステイやデイサービス(レスパイトケア)で、数日〜日中だけ預けて休むことができます。ケアマネに相談してみてください。
それでも
母の状態には波がある。落ち着く時期もあれば、また強くなる時期もある。今は、その波の、少し強いところにいるのかもしれない。
それでも、いちばんひどかった頃を思えば、なんとかここまで来た。
だから、もし今まさに叩かれている人がいたら、これだけは言いたい。
あなただけじゃない。


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