認知症の親とペットの暮らし——保護犬2匹がくれるものと、「犬がいない」と電話が来たときのこと

介護の知識

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実家には、保護犬が2匹いる。認知症の母と、介護する父と一緒に暮らしている。

母の認知症がゆっくり進んでいく毎日を、この子たちがどれだけ支えてくれているか。そして、認知症の人と犬が一緒に暮らすって実際どういうことか。今日はその話をしたい。

「僕たち、何ももらってないよ」の顔

母は、犬たちにフードをあげることはしない。何回もあげてしまうのが、自分でも怖いのかもしれない。そのかわり、おやつはあげる。

そして犬たちは賢い。「僕たち、何ももらってないよ」というような顔で、母にすり寄っていくのだ。その顔をされたら、母は何度でもあげてしまうのだろう。

それなら犬たちはさぞ太るだろうと思いきや——太りきれない。犬たちも母に気を使っているからか、不思議とそうはならない。笑ってしまうけれど、これが認知症と犬の共存のリアルだ。

父の「見える化」——器を洗う、それだけで犬の健康を守る

フードの管理は、父がしている。父のやり方はシンプルだ。ご飯の器を、毎回洗う。器が汚れていたら「もうあげた」ということ。記憶に頼らず、器を見れば分かる。

父は母より年上で、母のことと家事でいっぱいいっぱい。疲れると、ほどほどに物忘れもある(検査は問題なかったけれど)。だから「覚えておく」のではなく「見れば分かる」仕組みにする。犬たちの健康を守るためにも、これが我が家の知恵だ。

空気を読む犬たち

2匹は、家の空気を読む。母の機嫌が悪いとき、1匹は2階へ逃げ、1匹は端っこでプルプル震える。嵐が過ぎて母の気配が柔らかくなると、そーっと近づいてくる。

それでも2匹とも、母のことが大好きだ。母がいるときは、ほかの人に呼ばれても行かない子もいるくらいに。犬は本当に、人間に忠実で優しい。

犬たちが、二人にくれるもの

介護の毎日で、父は私たちになかなか本音を見せない。「大丈夫」と言い続ける人だ。でも犬がすり寄ってくると、私たちには見せない表情になる。私たち子どもにも見せたことのない顔で、犬たちを溺愛し、犬相手にはちゃんと話す。

母にとっては、犬の散歩が毎日の外出習慣だ。散歩には、父も必ず一緒に行く。気が紛れ、体が疲れて、よく眠れる。さっき行ったことを忘れて1日に何度も行く日もあるけれど、犬がいるから「行こう」と思える。犬たちがいなければ、二人が外に出る理由は減っていたかもしれない。

その散歩のあとの片付けをめぐって、父と母がぶつかっていた時期もあった(認知症の母に、家事をやらせたほうがいいの?)。

私にも、忘れられないことがある。2匹は私が探してきた子たちなのに、普段は私に全く興味がない。それなのに先日、母にやり込められて泣いていたら、2階から降りてきて、一番に私のところへ来てペロペロしてくれた。

「犬がいない」と、電話が来る

最近は、母が散歩に行かない日もある。「行きたくない」と言って、家に残る。父がひとりで犬を連れて出かける。

そうすると、しばらくして母から電話が来ることがある。

「犬がいない。探しに行ったけど、いない。お父さんもいない」

8月のある朝も、そうだった。

「一緒にいるんじゃない?」と私が言うと、母は「お父さんは別のところに行っている」と言う。

だから、こう返した。

「私も探しに行くから、お母さんは家にいてね。ジョンが帰ってきたら困るでしょ」

(犬の名前は仮名です)

母は「そうね」と言って、落ち着いた。

そのあいだに、父の位置情報を確認した。いつもの散歩コースにいた。父に電話をして、犬と散歩中だとわかった。母に電話で伝えた。

母はちょっと怒って、「なんで言ってくれないのかしら。メモでとか」と言った。でも、すぐに落ち着いた。

「家にいてね」には、理由をつける

このときわかったのは、「家にいてね」だけでなく、家にいる理由を渡すと、母は落ち着くということだ。

「ジョンが帰ってきたら困るでしょ」。それだけで、母は「待つ係」になれる。探しに飛び出すより、ずっと安心していられる。

犬は、一度本当に逃げたことがある

母が「犬がいない」と慌てるのには、わけがあると思う。

うちの犬は、7歳のときに両親の家に来た保護犬だ。来て間もない頃、本当に逃げ出してしまったことがある。父が2時間くらい探して、最後は警察に保護されていた。母はまだパートに出ていて、帰ってきてから知らされた。

母にとっては、強烈な出来事だったのだと思う。今の「散歩に出た」が抜けたところに、そのときの記憶がはまり込む。そのことは、認知症の母の薬の管理の記事にも書いた。

調べてわかったこと——答え合わせ

健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)では、認知症の記憶障害について、こう説明されている。

新しいことを覚えられなくなり、さっき聞いたこと、したことを記憶することが難しくなります。次第に、覚えていたことも忘れるようになっていきますが、自分が子供の頃の記憶など、昔の出来事は比較的覚えています。

(出典:健康長寿ネット「認知症の中核症状」)

さっき父が犬を連れて出たことは、残らない。でも、昔、犬が逃げた日のことは残っている。母の慌て方には、ちゃんと筋が通っているのだと思う。

母がひとりで外に出てしまったときのことは、母がいない——GPSを見て探しに出た30分に書いた。家族の居場所がわかる仕組みは、こういうときにも助けになっている。

保護犬の迎え方——うちは「アニフェア」で迎えた

両親が先代の犬を見送ったあと、「保護犬を探してほしい」と頼まれて、私がいろんな保護団体を調べた。

高齢の親が犬を迎えるとき、避けて通れないのが寿命の問題だ。犬の寿命は長くて20年。両親は「あと10年は大丈夫」と考えて、成犬の保護犬を迎えることを決めた。

調べた中でうちが選んだのは、アニフェアというところ。保護犬の譲渡を「寄付」ではなく「譲渡金」という明朗な形で運営していて、私にはそれが分かりやすかった。提携の動物病院で健康チェックや処置を受けてから譲渡される仕組みなので、迎える側としても安心感があった。

実際に迎えるときは、保険を1年間は入る形で案内されたり、スターターセットの購入があったり(当時の話なので、今は変わっているかもしれません)。無料ではないけれど、そのぶん条件がはっきりしていて、「何にいくら必要か」が見える。高齢の親のいる家庭が保護犬を迎えるなら、こういう透明さは大事なポイントだと思う。

「犬を飼うと認知症になりにくい」——調べたら、本当に研究があった

テレビ番組「ホンマでっか!?TV」で、「ペットを飼っていると(特に犬)脳年齢が15歳若返る」という話を聞いた。そのときは「本当かなあ」と半分笑って聞いていた。

でも調べてみたら、もっとしっかりした研究があった。東京都健康長寿医療センターが2023年に発表した研究では、約1万人の高齢者を追跡した結果、犬を飼っている人は、飼っていない人より認知症の発症リスクが約40%低かったそうだ。ちなみに、猫では差がほとんど見られなかったらしい(出典:東京都健康長寿医療センター プレスリリース・2023年10月)。

理由として挙げられているのは、「犬の世話による運動習慣」と「社会とのつながり」。これを読んだとき、思わずうなずいた。まさに、うちの両親のことだ。犬がいるから、母は父と毎日散歩に出る。散歩に出れば、近所の人と立ち話もする。運動と人付き合いが、犬たちのおかげで自然に毎日続いている。研究の言う「理由」を、両親は知らないうちに実践していた。

もちろん、すでに発症している母の認知症が治るわけではない。それでも、2匹がいることで両親の日常が少しだけ穏やかになっているのは確かだ。両親が険悪な雰囲気のときも、犬たちがそこにいるだけで、少し場が和らぐ。進行がゆっくりになってくれたら——そんな淡い期待を持ちながら、今日も実家の犬たちに感謝している。

本当は、のんびり余生を過ごすはずだった犬たち。コロコロ変わる母の機嫌をうかがう毎日にしてしまって、幸せだったのかなと感傷的になることもある。

ごめんね。でも、本当にいつもありがとう。

🐾 認知症になる前の、よく笑う母と犬の思い出は、こちらに書きました。
👉 プーちゃんと暮らす。認知症の母とペットの関係

🏠 両親が施設を考えるとき、この子たちはどうなるのか。犬と一緒に入れる老人ホームを調べた話は、犬と一緒に入れる老人ホームはある?——東京都で調べた、ペット可の条件と費用に書きました。

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