認知症の母と出かけるのが、だんだん難しくなっていた。
前はよく一緒に買い物に行っていた。でも最近は、誘っても断られたり、出発前に財布が見つからなくて揉めたり、玄関までたどり着く前に機嫌が悪くなってしまったり。「もう一緒には出かけられないのかな」と思い始めていた。
その母と先日、2時間の外出ができた。パンを買って、少し買い物をして、「疲れた」と言いながらも落ち着いて帰ってきた。
うまくいった理由は、母が変わったからじゃない。こちらの段取りを変えたからだった。今日はその「先回り段取り」を5か条にして残しておきたい。
その1:直前に誘う
いちばん大きく変えたのはここ。以前は「明日、買い物に行こうね」と前もって伝えていた。でもそれだと、母は約束を覚えていられない。覚えていられないのに「何かがある」という感覚だけが残って、不安になったり、待っているあいだに気が変わったりする。
だから今回は、出発できる状態になってから電話で誘った。「今から行かない?」——母が「行く」と言ってから、母の家に着くまで5分。不安が育つ時間を、最初から作らないことにした。
その2:お願いする準備は「ひとつだけ」
電話で伝えたのは「じゃあ、トイレに行って待っててね」——これだけ。
服を選んで、カバンを持って、戸締まりして……と複数の準備をお願いすると、途中で何かが分からなくなって、そこでつまずく。指示はひとつ。あとはこちらで引き受ける。
その3:財布は「持ってるから大丈夫」で解決する
出かける前のつまずきポイントの筆頭が、財布だった。財布が見つからない。カバンがない。探しているうちに「誰かが取った」の方向に話が向かうこともある。
だから今回は、迎えに行った時点で財布問題が起きかけていたのを、玄関からこう声をかけた。
「お金は持ってるから!あとで精算するから大丈夫。お父さんにもらうからね〜」
探すのを手伝うのではなく、探さなくていい理由を渡す。結局母は、ハンカチだけカバンに入れて車に乗ってくれた。それで何も困らなかった。
その4:「終わりの見通し」を先に伝える
母は出かける段になると、決まって父の昼ごはんの心配を始める。「お父さんのお昼、どうするの」——自分は何も作っていなくても、だ。たぶん、何十年も家族のお昼を心配してきた主婦の習慣が、体に残っているんだと思う。
これを「大丈夫だから!」と押し切ると、たいてい機嫌が悪くなる。今回は先にこう伝えた。
「下の娘が部活からお昼に帰ってくるから、それまでに戻るよ。すぐ帰ってくるからね」
いつ終わるのかが見えると、母は安心して出発できる。心配を否定するんじゃなくて、心配が要らない枠組みを先に見せる。
その5:帰りたそうにしたら、粘らない
ショッピングモールでは、母の好きなパンを買って、少しだけ買い物をした。滞在1時間ほどで、母はもう帰りたそうな様子になった。
せっかく来たんだから、もう少し——とは、しない。「楽しかった」のまま終わるのが、次につながる。おいしい飲み物だけ買って、さっさと帰った。帰宅後の母は「疲れた」と言いながら、落ち着いていた。
買い物中の、小さな攻防
順調に見えた外出にも、細かい攻防はあった。
母はブランドもののバッグを買おうとした(家にたくさんある)。ちょっといいお肉も買おうとした(もう料理はしない)。そのたびに、角が立たないように話を逸らしたり、「今日はパンの日だから」と別の楽しみに誘導したり。外出中は何度も財布を探してもいた。
だから「2時間の外出成功」は、ノーストレスの2時間ではない。それでも、玄関で揉めて出かけられなかった日々に比べたら、大きな前進だった。
根っこは「引き金を知る」こと
この5か条は、思いつきで生まれたものじゃない。
少し前に、母の怒りには「引き金」があると気づいて、2週間メモをつけたことがある(そのときの話はこちらの記事に書いた)。母がどこでつまずくのか、何に不安になるのか——それが分かっていたから、先回りしてひとつずつ消す段取りが組めた。
引き金を知ると、避け方が設計できる。メモを取ることは、遠回りに見えていちばんの近道だったと思う。
それでも出かけるのがしんどい日は
段取りを整えても、うまくいかない日はある。そして、家族がいつも付き添えるわけでもない。
そういうときのために、介護保険外で外出の付き添いや話し相手をお願いできるサービスもある。家族だけで抱え込まない選択肢として、知っておいて損はないはず。
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