
今日、実家に顔を出した。
父はゴルフだった。母が一人で留守番していると知ったのは、父から聞いたわけじゃない。キッチンのカレンダーに書いてあったから、わかっただけ。
認知症の母を一人にしておくなら、一言くれればいいのに。
母に会うと、昨日もお風呂を嫌がっていたことを思い出した。今日こそはと思って声をかけた。でも、入らない。何度声をかけても、入らない。
その間、母は父に2度電話をかけていた。父がゴルフに行ったことを忘れてしまって、心配になったのだろう。認知症だから、仕方ない。
夕方、父が帰ってきた。
風呂に入っていない母を見て、イライラしている。そこに母が「どこにいるの?」と電話したことを、小声で言い捨てた。感じが悪かった。
母が逆ギレした。
朝の薬も飲んでいない。風呂にも入っていない。父は「一人でできないなら言うことを聞いてくれ」と母に言う。母はさらに怒る。
私はその間にいた。
ただ、疲れた。
お父さんの気持ちもわかる。お母さんのことも心配している。でも、認知症の人に「言うことを聞け」は届かない。怒っても、怒鳴っても、5分後には忘れてしまう。
誰も悪くないのに、誰もしんどい。
私が一番心配しているのは、母のことよりも、父のことかもしれない。毎日一緒にいる父の生活のクオリティが、じわじわと削られていっている気がして。
デイサービスを増やすか、月に一度でもショートステイを使えないか。そう思っている。
でも父は「そんなことしなくていい」と言う。
不思議なのは、デイサービスに行く日の朝、母はものを投げたり怒ったりするのに、時間になるとスッと行くんです。行ってしまえば、きっと楽しんでいる。
それを知っているから、もう少し頼ってほしいと思う。父のためにも、母のためにも。
でも、言えない。
📋 介護者が倒れる前に、使えるサービスを知っておく
父のように「まだ大丈夫」と言い続ける介護者ほど、突然限界を迎えることがある。介護保険の範囲外でも、通院付き添いや夜間サポートなど、家族の負担を減らせるサービスがある。
そういう日だった。
「怒鳴る父」を、責められなかった理由
この日の父を、私は責める気になれなかった。今もなれない。
父の世代の男性は、家事も介護も「習っていない」。それなのにある日突然、24時間の介護者になる。しかも、弱音を吐くことも、助けを求めることも苦手なまま。うちの父の「大丈夫」「そんなことしなくていい」は、強がりというより、それ以外の言い方を知らないのだと思う。
介護をする人の3人に1人ほどは男性だと言われている。父のように黙って抱え込む人が、日本中の家にいる。怒鳴り声は、その人の性格ではなく、逃げ場のなさが音になって出たもの——そう見えるようになってから、私は父への見方が少し変わった。
「言うことを聞いてくれ」が、いちばん届かない
その一方で、はっきり分かっていることもある。認知症の母に「一人でできないなら言うことを聞いてくれ」は、届かない。正論であるほど、母には「責められた」だけが残って、怒りに変わる(認知症の母が急に怒る——わが家で見つけた「3つの引き金」と、効いた対応)。
うちで効いたのは、結局、正すことではなく流すことだった。短くひとこと、事実だけ。話題を変える。その場を離れる。それでも暴言や興奮が激しくて家族が消耗しきっているなら、それは我慢の問題ではなく、受診で薬や関わり方を相談していい段階だと思う。うちがどう変わったかは、別に書いた(認知症の親の暴力・暴言への対応——原因と、介護者が抱え込まないための相談先【経験者】)。
あれから——父は、あまり怒鳴らなくなった
この日から、時間がたった。
母は薬の調整が効いて、あの頃よりずっと落ち着いている。すると不思議なもので、父も、あまり怒鳴らなくなった。最近は冗談を言って笑うことさえある(認知症の始まりは、父が食器を洗いはじめた頃だった)。怒鳴る父と怒る母は、別々の問題ではなくて、つながった一つの輪だったのだと思う。どちらかが緩めば、両方が緩む。
デイサービスは、あのあと週2回に増えた。父は相変わらず「大丈夫」と言うけれど、私たちは父を通さず、ケアマネさんに直接動くことを覚えた。
そして、書き出しに戻る。あの日私は「ゴルフに行くなら一言くれればいいのに」と思っていた。今は、少し違う。父のゴルフは、介護を続けるための、父の命綱だ(父のゴルフと、何度もかかってくる電話——介護する人にも、息をする時間が必要だ)。行ってきていいよ、と今なら言える。留守番は、私たち子どもの出番だ。
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